『翳りゆく父』The Father's Shadow【感想・レビュー】

2018年10月29日月曜日

映画祭 外国語映画 東京国際映画祭

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『翳りゆく父』The Father's Shadow【感想・レビュー】

(C)ACERE , 2018.

第31回 東京国際映画祭 コンペティション部門

スタッフ

監督:ガブリエラ・アマラウ・アウメイダ Gabriela Amaral Almeida

キャスト

ジュリオ・マシャード Julio Machado
ニナ・メデイロス Nina Medeiros
ルシアナ・パエス Luciana Paes

あらすじ

父親の病気と母親の死のために、小さな子供が一家の長にならなければならなくなったとき、物事の自然な順序は入れ替わる。子供でいることは長く苦しい冒険になり、苛立ちを募らせる父親でいることは罰になる。本作はダルヴァと彼女の父親の物語である。仕事上の事故と思われる悲劇の後、悲しみに暮れる父親を娘が見つめる。父娘は会話が成り立たない。ダルヴァは亡くなった母親をよみがえらせることができると信じている。父親の存在が薄くなり、やがて危険な状態にまでなるにつれ、ダルヴァは母親の生還こそ唯一の希望と考えるようになる(第31回東京国際映画祭公式HPより)

10月29日(月曜)上映後Q&Aより(ネタバレ含みます)


ガブリエラ・アマラウ・アウメイダ監督(以下、監督)
ロドリゴ・サルティ・ウェルトヘイン(プロデューサー)(以下、ロドリゴ)
聞き手:矢田部吉彦プログラミング・ディレクター「コンペティション」担当

Q(矢田部):タイトルの意味を教えてください。
A(監督):ダルヴァが抱えているもの、父親の影であり、悲しみを抱えた、父と繋がりが保てなくなった心を表現した。

Q(矢田部):着想は、どこから得たのでしょう。
A(監督):母親が植物となって、復活してくるイメージがあり、そこから広げていった。デヴィッド・リンチ作品の中で、植物として復活するシーンがあったように記憶しているが。

以下、観客からの質問
:南米には、マジックリアリズムの文化があると考えるが、ハリウッド作品のホラーの影響もあるのか。また、劇中の女性達が呪術的なことを行うシーンがあるが、今でも日常の中に存在するのか。
A(監督):私はやらないが、周りの人で行う人もいて、生活の一部になっている。ハリウッドホラーは、よく子供の頃にTVで観たし、大学でスティーブン・キングを学んだ経験もある。

:監督がホラーに惹かれる理由は。
A(監督):キャラクター達は、死を意識しているが、それは即ち、生きるということに繋がる。モンスターに直面すると、自分の中の恐怖と直面することになるが、ホラーは寓話的にそれを表現する。恐怖が大きすぎると、リアリティが失われてしまいますが。ただ、ホラーを観ると落ち着きますね。

:好きな映画を監督とプロデューサーで2本ずつ挙げてください。
A(監督):ヒッチコック『鳥』、『チャーリーとチョコレート工場』
A(ロドリゴ):『タクシードライバー』『突然炎のごとく』

:父親への救いが母親と会うことであれば、肉体を持つゾンビではなく、ゴーストでもいいのではないか。文化的な側面として、日本は火葬するため、幽霊という場合が多いが、ブラジルが土葬のため、ゾンビとしたのか、また、別の理由があるのか。
A(監督):ブラジルでは、一般的には土葬です。呪いによって、母親が肉体的に復活することが必要だった、それは、父親にとっては、肉体が必要と考えたから。

:子供の頃、ホラー映画を観て、怖くありませんでしたか。また、メキシコでは死者の日という形で、死者が不吉なものではないという思想もあるが、ブラジルはどうか。
A(監督):メキシコとブラジルの文化は、かなり異なる。ブラジルでは、死の話は基本タブーだが、地域によっては、輪廻転生を信じるところもあるらしい。
子供の頃は、両親が寝ている間に、ホラー映画も観たし、ホラー小説も読んだ。自分に降りかかってくることがないことを理解し、恐怖をコントロールできるようになってからは、あまり怖くない。

:日本でも、死者と対話する方法として「こっくりさん」というものが子供たちに流行し、使うのは10円玉を使う。ヴィジャ盤のようなアイテムもあるが、ブラジルで対話する時は、劇中と同様にコップなのか。流行しているのか。
A(監督):子供たちは、よく遊んでいる。初めて自分が体験した時は、一番の年少だったので、コップを動かされて、びっくりしたことを覚えている。

ブラジルのホラーが来た

ホラーは、その国の宗教や風習、民族的な影響がよくみえるのが面白い一面でもあるが、この作品では、ブラジルのホラーの立ち位置がわかる。この作品は、怖がらせるホラーというよりは、妻を失った夫とその娘の交流の話であり、その映像表現の中にホラー要素があるといった印象で、その描き方も独特である。

土葬か火葬か。国別モンスターの違い

本作品では、死者がゾンビとして登場するが、日本では四谷怪談をはじめ幽霊が一般的である。それは、火葬文化が普及した日本では、墓には死体がなく、土葬の場合は死体があることが、ひとつの大きな理由。他にも、吸血鬼というモンスターがいるが、西欧、南米、中国などでその姿かたちや特性が違うことも面白い。現在、よくイメージされるドラキュラ伯爵のクロマントの姿は、舞台化されたことで確立されたことなどは有名な話だが、伝承というものは、普遍的な要素もあるが、地域性や時代によって変化したりする。ホラー映画を民俗学として観ると、違った見方ができて、楽しいかも。

作品全体として

ホラーというジャンル映画として観るのではなく、父と娘の交流を描いたヒューマンドラマと考える方が近い。死者の復活の役割を、事象としてではなく、そのもたらす意味として捉えられる、そんな作品。日本のホラー映画と連続して観てみるのも、面白いかかもしれないが、何がいいだろう。貞子シリーズではない気がする。

『翳りゆく父』東京国際映画祭作品紹介ページ
https://2018.tiff-jp.net/ja/lineup/film/31CMP05

特集 第31回 東京国際映画祭 31st Tokyo International Film Festival
https://www.lifewithmovies.com/2018/10/tokyo-international-film-Festival.html

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