第21回上海国際映画祭 コンペティション作品
中国映画祭「電影2019」東京オープニング作品
スタッフ staff
監督:ルー・ユエ Yue Lu出演 Cast
ヤオ・チェン Chen Yao:リー・ジエ Li Jieマー・イーリー Yili Ma:スン・ファン Sun Fang
あらすじ
弁護士のリー・ジエは娘のためにスン・ファンというベビーシッターを雇う。 ある日家に戻ると、スン・ファンと娘が姿を消していた。二人を必死に探すリー・ジエだが、元夫の身内から非難の声を浴びせられ、警察からは反対に疑いをかけられ心身ともに崩壊寸前まで追い込まれる。 自力で二人を探し出す決意をするリー・ジエ。 スン・ファンが自身の身元を偽っていたことが発覚したことをきっかけに、驚愕の真実が次々と明らかになっていく......(電影2019公式サイトより)
2019年3月9日(土曜)上映後Q&Aより(ネタバレ含みます)
ゲスト:マー・イーリー
Q:作中とはかなり印象が異なってみえますが。
A:自分の知らない女性も演じてみたいと、考えています。
Q:現代の中国社会が抱える問題が含まれていますね。子供が攫われるという事件ですが、ピーター・チャン監督の『最愛の子』でもテーマとなっていましたが。
A:『最愛の子』も、素晴らしい作品ですね。この作品において、最初にフォーカスしたのは、今、女性がどう生きているのかということ。仕事、家庭、子供。現代の女性には、多くの課題がある。キャリアを重ねることが良いのか、良き妻であることが良いのか。私自身も2人の母親であり、映画に出演する時は、子供たちを預けないといけない。他方で、子育てにのみ注力すると、映画会社に謝らないといけない。このバランスには、答えはないし、また、男性と助け合うことでクリアできることもある。
※『最愛の子』ピーター・チャン監督 ヴィッキー・チャオ主演。第34回香港電影金像奨のほか、国内映画賞では、主演女優賞を多数受賞。海外でも、第71回ヴェネツィア国際映画祭、第58回ロンドン映画祭で上映されている。
以下、観客からの質問
Q:役づくりをする際に、注意した点はどこか。
A:スン・ファンは、悲劇的な人物で、今まで自分が演じてきた役とは、異なる人物でした。口数は少なく、他者の同情を求めません。抑圧され、孤独を抱えています。現代には、こういう人が増えているのではないでしょうか。母親としてのプライドは、高い人物でもあります。スン・ファン役は、セリフがかなり少なく、しぐさや目線を使い、心の動きを表現する必要がありました。その結果、目線やしぐさは、印象的なものになっていると思います。
Q:ラストシーンで、子供が「ママ、パパ」と言った時、スン・ファンは負けたと感じているように見えた。どのようにラストシーンを製作したのか。
A:彼女を動かしているのは、「理性」。飛び込むことをやめたのは、自分の娘のように愛しているなら、自分の道連れにはしないという、そんな理性が働いていたと思う。彼女の子供を想う気持ちは、観客の皆様にも届いたのではないでしょうか。今、社会が近代化し、女性の差別や男女平等が叫ばれていますが、実際には、同性であっても差別はあります。女性同士の人間関係は、どのようになっているのでしょうか。性別に関係なく、どのような立ち位置であっても、相互に理解されることが望ましいですね。
Q:スン・ファンは、ヤオ・チェンに何を言おうとしていたのでしょうか。
A:今日、誰かが子供を連れ去ることがあるかもしれない、と伝えたかったはず。密約があったので。ただ、子供との間に愛情が芽生え、思い留まろうともしたが、電話での会話を聞いて、心変わりをする。
Q:エンドロールのスン・ファンのシーンは、鎮魂を意味するのか。
A:この場面は、スン・ファンにも幸せになって欲しいという想いから、フラッシュバック的にシーンを挿入しています。
女優:マー・イーリー
映画祭に登場した時も驚いたが、作品の姿と普段の姿がまったく異なる。老けメイクといえば簡単だが、今回演じたスン・ファンが影のような、オーラをまったく纏わない、キャラクターづくりが素晴らしい。物語が進んで行くにつれ、観客がどんどんスン・ファンという人物へ共感していく、その変化も衝撃的。Q&Aの中でも答えているが、セリフがかなり少ないのだが、細かなしぐさや目線、そして、少ないがゆえに後半その言葉が効いてくる。そんな難役を演じきった彼女の演技は素晴らしい。緻密なストーリー
社会派サスペンス映画として、息もつけない展開であるが、注目すべきはそのシナリオの緻密さ。前半で何気なく描かれている風景が、物語の後半で観客を惹きつける伏線として顕在化する。ラストまで観ると、もう一度、最初からスン・ファンの表情やセリフを見直したいと思わせる、脚本が秀逸です。現代中国の社会問題
日本では社会問題となるほど発生しない子供の誘拐事件だが、『最愛の子』からふたたび作品のテーマに選ばれるぐらい中国の闇となっているのか。最近では、一人っ子政策からの歪な世代構成の問題も顕在化してきているが、今後も中国の社会問題を背景とした作品が続きそうだ。作品全体として
マー・イーリーという女優が強烈に印象に残る作品で、舞台挨拶で彼女の言葉を聞くことが出来たことは、幸運だったし、彼女が招待されたのも頷ける。セリフやしぐさ、最初から最後まで、細密画を観る気持ちで気合を入れて観ないと、一度ではすべてを鑑賞することは難しい。それぐらい、作り込まれた秀作品。おすすめ。『失踪、発見』Lost, Found IMDB
https://www.imdb.com/title/tt9034530/
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