『アワ・ボディ』Our Body【感想・レビュー】

2019年3月15日金曜日

review topic

t f B! P L


第14回大阪アジアン映画祭 コンペティション作品 スペシャルメンション(監督)受賞

スタッフ staff

監督・脚本:ハン・ガラム HAN Ka-ram

出演 Cast

チェ・ヒソ Moon Choi:チャヨン Ja-young
アン・ジヘ Ji-hye Ahn:ヒョンジュ Hyun-joo

あらすじ

アラサー女性チャヨンは公務員試験に幾度も失敗。ついに試験を放棄すると恋人には去られ、母親には疎まれてしまう。ある夜、出会った美人ランナーのヒョンジュに魅かれ、自分も走り始めるが、やがて肉体の変化とともに自分を取り戻していく。ヒョンジュの突然の死によって動揺するものの、以前の自分とは違うことを明確に自覚するのだった。(第14回大阪アジアン映画祭公式HPより)

2019年3月15日(金曜)上映後Q&Aより(ネタバレ含みます)

ハン・ガラム監督(以下、監督)
チェ・ヒソ

(挨拶より)
チェ・ヒソ:この作品は、まだ韓国では公開されておらず、観客の前で上映されるのは、今回が初めて。
監督:まさか、観客の方を前に上映することができるとは考えていなかった。

:大勢の前で上映できるとは、と言われていたが、この作品は卒業制作などでしょうか?
A(監督):韓国国立映画アカデミーの卒業制作です。

:上映は、想定外だったのですか?
A(監督):海外で上映できると考えていませんでした。

:チェ・ヒソさんは、卒表制作の作品なのに、とても挑戦的な演技をされていますが、出演された理由は。
A(チェ・ヒソ):『金子文子と朴烈』の撮影のあと、シナリオをいただきました。力強く、小説のような脚本でした。平凡なのに、韓国の女性の共感が得られるようなキャラクタで、力強かったです。前作とは、女性が「主体的」であるという共通点がありました。この作品は、彼女だけの「生き方」「色」を意識して演じました。

以下、観客からの質問
:主人公は、親から与えられた価値観に挫折したのち、ヒョンジュの生き方に惹かれ、ラストには自らの価値観へと昇華するように描かれていた。日本でも、TVの普及の影響と考えるが、他者から与えられた価値観に影響される人が多くなり、現代はそれがSNSにより多様化していると考えているが、韓国で、今、この作品を制作されようと考えた意図、社会的背景があるのか。
A(監督):20代の頃、自分自身もとても悩んでいました。社会や親の期待に応えないといけないというストレスとの戦いがありました。この作品は、体の変化によって、生き方が変わっていく姿を表現しています。体は自分の理想を外部に表現できる唯一のものである、という文章に出会いました。韓国の若者も同じような悩みにぶつかっていると思います。私の作品の意図を正確に汲んでいただき、うれしい。

:とても難解な作品でした。ヒョンジュとの、年の離れた妹との、同性の人間関係の描き方について意識されたことを教えて欲しい。また、劇中に登場するお酒の意味は。
A(監督):ヒョンジュは、先に生き方を確立している人。その死を通じて、主人公はその生き方を追体験することになります。そして、その結果、自分の生き方を見つけることになります。妹は、新しい世代の象徴として描いています。おそらく、ヒロインとは別の生き方へ到達すると考えています。劇中のお酒は、お酒好きの友人がいて、その姿がとても格好良く、ヒョンジュのキャラクターにあっていると考えたの設定しました。飲んでいるお酒(設定)は、麦酒です。
A(チェ・ヒソ):梅酒だと思ってました!撮影時は、リンゴジュースを飲んでいます。

:(チェ・ヒソへ)今後、どのような役柄を演じたいですか。
A(チェ・ヒソ):挑戦的な役柄に惹かれています。ただ、まだ自分は新人です。『金子文子と朴烈』は、オーディションを経て、勝ち取った配役でしたが、今回はオファーをいただきました。実は『金子文子と朴烈』出演前に、少し空白期間があり、映画アカデミーに自分のプロフィールを持って、売り込みに行ったことがあります。その時、プロフィールシートを置いたパソコンの横が、偶然、監督が普段使っていたPCだったそうです。後日、監督から『金子文子と朴烈』を観たあと、そのシートに書かれた個人の連絡先へオファーが来ました。この後、演じたい役柄は、国籍や職業にこだわりはなく、様々な役柄を演じたいと考えています。

ロジカルなシナリオ

自分の生き方を探す物語が基本だが、その進め方は、ラストへ至るまで、そのエピソードや表情が数学の方程式のように無駄なく、設計されている。ヒロインの感情を追うものがありでありながら、ドラマとしての進行がロジカルで、その対比が面白い。

韓国の新星、チェ・ヒソ

ヒロインを演じるチェ・ヒソは、『金子文子と朴烈』の演技で注目を集めた遅咲きの新人女優。前年の国内映画賞を、同作品で総なめにしている。笑顔で話す目の奥にたたえた意思の力が、スクリーン越しにも伝わってくる素晴らしい演技をみせてくれた。この作品も、卒業制作ではあるが、配給に乗ることができれば、おそらく注目を集めるであろうクオリティに仕上がっていて、また、今後の出演作品に注目が集まるひとり。自身のインタビューでは、他の役柄に挑戦したいとコメントしているが、果たして、どのような作品に出演していくのか。要注目新人俳優であることは、確かである。

生きていくための価値観

この作品は、単なる自分探しの物語ではない。人の価値観は、後天的なもので、親、友人、恋人など身近な人間関係から、ニュースや本、映画などから得る情報や実体験などを経て、形成されていくはずだが、情報が氾濫した近年、マスコミニケーションが発達し、画一的な価値観を多くの人々が同時に受けることになったため、社会常識という誰が決めたのか、わからないような「謎の価値観」を信じる人々を大量に排出することになった。現代は、さらにSNSの登場により、今度は、情報発信源の多様化が起き、また、画一的から多様性に変化していく過程にあるが、仮想的な情報伝達となっているため、将来予想は難しい。そんな現代において、人の価値観はどのように変化するのか、考えたら良いのか、そんなテーマがこの物語には内包されている。

作品全体として

新人監督は思えない脚本の完成度と演出が衝撃的な作品。国内配給もこれからのため、市場における評価は未定であるが、要注目したい監督。また、ヒロイン:チェ・ヒソのこのあとの出演作品に期待したい。オススメ作品。

第14回大阪アジアン映画祭
http://www.oaff.jp/2019/ja/

『アワ・ボディ』Our Body IMDB
https://www.imdb.com/title/tt8922682/

サイト運営

自分の写真
映画情報「Life with movies」編集部公式サイト。最新映画や映画祭、舞台挨拶のほか、編集部による過去映画トピックスをお届けします。 twitterアカウント:@with_movies

QooQ