『さよならくちびる』Farewell Song【感想・レビュー】

2019年6月1日土曜日

review

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(C)2019「さよならくちびる」製作委員会

スタッフ staff

監督・原案・脚本:塩田明彦 Akihiko Shiota

出演 Cast

小松菜奈 Nana Komatsu:西野玲緒(レオ) Reo
門脇麦 Mugi Kadowaki:久澄春子(ハル) Haru
成田凌 Ryo Narita:志摩一郎(シマ) Shima

あらすじ

インディーズのデュオ<ハルレオ>は、二人を支える付き人のシマと、浜松、大阪、新潟、そして北海道へとさよならツアーに出発する。ひとりぼっちだったふたりが出会い、路上から始めてライブハウスをうめるまでの人気を獲得した。その絆の強さは、ありふれた友情なんかじゃない。ところが、さあこれからという時にふたりが出した答えは──“解散”。いったいふたりに何があったのか、シマとの関係は?旅を重ねるうちに、歌詞にしか書けないハルの真実と、歌声でしか出せないレオの想い、隠し続けたシマの本音が露わになり、ツアーは思わぬ方向へと転がっていく──。(公式HPより)

物語の主役は

音楽ロードムービーという宣伝文句も書かれているが、この物語は音楽をテーマにした歌手の物語ではなく、3人の若者が音楽の中に心の叫びのようなものを表現する物語となっている。音楽の歌や演奏の上手さや再現性に注目していると、この物語の本質的な部分を見逃してしまうかもしれない。そのあたりは、作品の前半でユニットを組み、練習するシーンが、観客の心が別のところへ行かないように提示されているの構成が良い。

セリフだけではない

この作品は、かなりセリフが少ない。そのかわり、俳優の演技に加えて、ハルの詩の中で感情を表したり、歌っている歌詞で表現したり、いろんな角度から彼らの痛みや葛藤が伝わる構成になっている。また、繊細なシーンが多いこともあり、同じシーンの繰り返し、例えば、ビールを飲む、たばこを吸う、歌を歌うというシーンを同じアングルで展開することで、それぞれ異なる演技をしていることへフォーカスが当たるように作られている。

単純な恋愛物語ではない

女性デュオと男性のローダーの間で繰り広げられる恋愛物語かと思いきやそうではなかった。徐々に明らかになっていく彼らの心の在り様が複雑かつ繊細で、しかしながら、剥き出しの感情をぶつけ合うわけではなく、お互いを思いやりながら、確認作業を繰り返していく作品となっている。

観客をはなさない物語

小説や脚本を書く際には、読者や観客のこころをラストシーンまで連れていく「軸」が必要である。推理小説であれば、殺人事件の犯人や謎がその役割を果たすことが多いが、この物語では冒頭に提示された「ユニットの解散」がその役割を果たしている。そして、3人がお互いを思いやるゆえに出した「解散」に対して、しかし、お互いに離れたくない、という気持ちが画面を通して伝えられていくことが、作品に緊張感を与え、観客の心をはなさない。

作品全体として

注目の若手俳優の演技力を存分に引き出した脚本と演出が素晴らしい。ロードムービーという形式を取ることで、3人の感情の流れと観客を繋ぎつつ、回想シーンで表現される彼らの心の在り様が作品の奥行を広げている。近年、評価される若者の心を描いた作品でも、海外の作品に比較すると、物足りない印象を受けていたが、この作品は、ひとつ抜けた印象。惜しまれるのは、この作品であれば、海外の映画祭や東京国際映画祭などでも評価されうる素晴らしい作品だが、国内公開されてしまったゆえに、その機会が失われているならば、残念。日本国内のみならず、海外の方にも自信をもって紹介できる作品。2019年日本映画の代表的な作品で、ぜひ、観ておくことをお勧めします。

『さよならくちびる』公式サイト
https://gaga.ne.jp/kuchibiru/

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