第38回 ファジル国際映画祭イースタン・ヴィスタ部門 銀のシモーグ受賞
第23回 ウディネ・ファーイースト映画祭 ホワイト・マルベリー賞受賞
ニューヨークアジアンフェスティバル 最高賞受賞
あいち国際女性映画祭 海外招待作品
スタッフ staff
監督・脚本:カオ・ジンリン Jinling Cao
出演 Cast
ワン・チュエンジュン Chuan-jun Wang:リンズー Linzi
シー・リージェン Ligeng Si:トゥートゥー TuTu
チー・シー Xi Qi:チュン Chun
あらすじ
1990年代の内モンゴル。2人の兄弟、トゥートゥーとリンズーは共に林業をしながら暮らしていたが、ある時、同時に1人の女性に好意を持った事で彼らの間に亀裂が生じる。弟のリンズーが自然との共存のため乱伐から木々を守ろうとする一方、兄のトゥートゥーは別の道を歩む。美しい大自然を舞台に、彼らの人生を通して描かれる環境ドラマ。(あいち国際女性映画祭公式HPより)
2021年9月2日(木)上映後(リモート)Q&Aより抜粋
カオ・ジンリン 監督(以下、監督)
聞き手:水野由美子
Q(水野):この作品を製作するきっかけは、なんでしょうか。
A(監督):これまで、監督以外の仕事を多く経験してきた。その中で、いろいろな出会いがあり、脚本も書いてきた。それらが積み重なり、今回、監督することになりました。
Q(水野):この作品を製作するにあたり、環境問題について、どれくらいリサーチされたのでしょうか。
A(監督):かなり取材や調査を行いました。中国の「モルダオガ」は、原始の森林が残る地域で自分の故郷でもあります。そこで生活される方に数十人の方に話をお聞きしました。
Q(水野):自然の美しさや厳しさがスクリーンから伝わってきましたが、撮影の際に苦労されたことはありますか。
A(監督):現地の冬は極寒な地域ですが、スタッフは南方出身者が多く苦労していました。テントを張り、9日間、ネットも繋がらない場所で撮影していた時もありました。交通も不便な場所でした。
Q(水野):監督は地元の寒さには、慣れておられたのですか。
A(監督):私は、大学からずっと北京に住んでいますので、久しぶりの地元でした。ただ、いつもは冬ではなく、夏に帰省しています。撮影が終わり、北京に戻った時には、毎日、温泉に入っていました。実際に生活する時も、冬はあまり外には出ませんが、今回は、外での撮影が多く、実際に出た熊を撮影し、使用した。優秀なスタッフのおかげで、完成することができました。
Q(水野):兄弟が中心の物語ですが、2人のキャラクターは対照的に描かれていますが、その意図はどこにあるのでしょうか。
A(監督):この民族は、森林の中で生活をしています。私たちと違い、人と森、人と大自然が共存していて、生活様式が異なります。兄のトゥートゥーは、それらを捨て生活しようとしていて、弟のリンジーは、森で拾われた自然の子です。生活するためには、木を伐採しないといけないが、しかし、伐採したくない。この2人は考え方が異なりますが、それは、私たちの生活の中でも、例えば、多数派と少数派みたいに存在するものです。英題は、『ANIMA』と言いますが、魂という意味がある。
Q(水野):兄弟と出会う印象的な女性は、どのようなイメージで、描いたのでしょうか。
A(監督):このチュンというキャラクターは、エヴェンキ族。この民族は、女系家族で180年ぐらいの歴史を持っています。狩りも女性がするという民族です。この方々を取材することで、このキャラクタのインスピレーションを得ることができました。
Q(水野):土砂崩れのシーンもありましたが、日本では近年、森林の荒廃が進み、土砂崩れが起きています。森林伐採と自然災害との関係について、どのように考えていますか。
A(監督):昨年からのコロナ感染も、山火事や虫害、洪水など、自然からの警告ではないか、と捉えています。自然と人間の均衡を目指す上では、この災害について、対策をしなさい、と課題を与えられている気がしています。
Q(水野):中国は、近年、発展が著しいが、国内でのこの作品の受け止めは、どうでしょうか。
A(監督):中国国内では、珍しいテーマを扱っていますが、私は小さい頃に育った環境の影響もあり、興味を持っていました。上海国際映画祭で2度上映されました。観客の方の感想としては、北方にまだこのような景色が残っているのか、というものと、1998年の洪水被害を体験しているので、反省していく必要がありますね、といったものでした。
Q(水野):コロナ感染のドキュメンタリーを撮影されておられますが、次回作は、どのようなテーマに取り組んでいきたいと考えておられますか。
A(監督):丁度、昨日からクランクインした作品があります。これは、麻薬をテーマにした作品です。麻薬の中毒からどのように抜け出していくのか、多くの方にも共有していきたいテーマです。
自然と、森との共生
産業の発展と環境破壊、森林保全をテーマにした作品は、過去にも多く製作されている。日本でいえば、宮崎駿監督の『もののけ姫』が想起されるが、他にも、2020年公開の同じくアニメーション作品の『ウルフウォーカー』も同種のテーマをベースとして描かれている。この作品では、兄弟を主人公にすることで、「破壊する者」としての兄と「守る者」としての弟として、象徴的に描かれている。ヒロインは、自然と生活する民族の女性なので、「守る者」である弟が選ばれるのだが、結婚後の生活には困窮してしまう、という現実のジレンマが突きつけられている
中国と日本の森林破壊の違い
環境をテーマにした作品だが、日本とは状況が異なる。この物語では、違法伐採により、森林から木がなくなることで、土砂災害が発生する、という展開が描かれているが、日本において、近年、問題となっているのは、木材単価の下落やそれに伴う林業事業者の減少、有害鳥獣による森林荒廃などにより、土壌が弱り、土砂災害を引き起こすというもので、中国のそれとは、状況が異なる。作品全体として
この物語においては、主人公は、森林を守ろうとすることで、娘を失うことになるが、一方で息子とは融和を果たしている。環境問題と産業の発展は、相対的な部分があるが故に、その落としどころを模索することになる。現在の我々の世界が抱える矛盾を、ドキュメンタリーではなく、劇映画で表現しているのが、監督の挑戦だろうか。『モルダオガの森』あいち国際女性映画祭 作品紹介ページ
https://www.aiwff.com/2021/filmslist/overseas_special_offers/filmwork01
『モルダオガの森』ANIMA(IMDB)
https://www.imdb.com/title/tt11193834/
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