第25回 釜山国際映画祭ニューカレント部門出品
第46回 ソウル独立映画祭コンペティション部門 大賞等受賞
第64回 サンフランシスコ国際映画祭 新人監督部門 審査員特別賞受賞
あいち国際女性映画祭 海外招待作品
スタッフ staff
監督・脚本:イ・ランヒ LEE Ran-hee
出演 Cast
イ・ボンハ Lee Bong-ha:ジェボク Jae-bok
キム・アソク Kim Ah-Seok:ジュニョン Joon-yeong
シン・ウンソブ Shin Woon-Seop:ウジン Woo-jin
あらすじ
解雇された49歳のジェボクは仲間と共に5年間座り込みの抗議を続けていたが、解雇無効の裁判に負け、休暇を取ることにする。彼はその間家に戻り、娘の大学の学費などを支払うため家具の工房で働き始める。2人の娘との日々の暮らしにも充足感を覚え始めたが…。(あいち国際女性映画祭公式HPより)
2021年9月5日(日)上映後(リモート)Q&Aより抜粋
イ・ランヒ 監督(以下、監督)
聞き手:木全純治 映画祭ディレクター(シネマスコーレ支配人)
Q(木全):大学では英文科とお聞きしていますが、映画製作を志したきっかけを教えてください。
A(監督):1990年代、大学に入学する際に、一番就職しやすい学部が英文でした。在学中に演劇サークルに入っていて、その流れから映画に興味を持つようになりました。卒業してから8年間、劇団で企画や役者をしていました。『トンマッコルへようこそ』に出演し、映画の楽しさを知りました。
Q(木全):俳優から監督へ転向される際の苦労はありましたか。
A(監督):独立系の映画作品で主演を務めたことがあり、その撮影時に10日間演出部と同じ部屋にいたことが学びに繋がりました。その後、漢江の映画学校で映画製作を学びました。
Q(木全):長編を撮影される前に、数本、短編作品を撮影されていますが。
A(監督):映画学校の実習で2本、卒業後に3本、ドキュメンタリーを1本製作しています。『A Perm』や『A Tent』という作品ですね。
Q(木全):韓国映画で、労働問題をテーマした作品はあまりないと思いますが、このテーマに取り組もうと思った理由は、なんでしょうか。
A(監督):韓国映画でも、ドキュメンタリーなら労働問題を扱ったものは多く存在します。ただ、劇映画で製作されているものは、あまりありません。短編映画を数本撮り終えた2013年頃、「切実な願い」を持つ人々を描きたいと感じていました。2012年頃、街頭で労働運動を見かけたことがありました。最初は、解雇された実話を元に映画化しようとしましたが、そのまま映画化すると、曲解されたり、実在の人たちを傷つける恐れがあり、設定を変更することにしました。
Q(木全):製作資金を集めることに、ご苦労はありませんでしたか。
A(監督):少額で製作するのであれば、それほど苦労はしません。4機関から、企画、撮影、配給、宣伝でそれぞれ支援を受けています。10日間の撮影でしたが、座り込みの場面を仁川で撮影することで経費を節約しました。ポスプロまで合わせて、約1千万強ぐらいで製作できました。
Q(木全):製作資金は、何年くらいで集められたのでしょうか。
A(監督):2017年の企画から、2020年の配給資金まででしょうか。
Q(木全):作品の内容について、お聞きします。実際には、作中のように、これほど長期間、運動ができるものなのでしょうか。
A(監督):韓国では、作中に登場するような運動をする場所が、結構、存在しています。大田の工場は12年間で終わりました。仁川は14年続いています。
Q(木全):労働運動で、それほど長期間活動する場合、資金は枯渇しないのでしょうか。
A(監督):失業手当を受給後、保険や預金、組合からの支援、市民からの支援金等を活用されているようです。販売等を行って、資金を集めたりするケースもあります。家族が働いて、支援しているケースも。
Q(木全):主人公は、地方に住んでいる設定ですが、場所はどこの設定なのでしょうか。労働運動している場所は、ソウルだと思うのですが。
A(監督):仁川に住んでいる設定です。ソウルまで、2時間ぐらいの距離です。ただ、最初に家に帰ったシーンは、2、3か月家に帰っていない設定なので、夏に使っていた扇風機を片付けるところを描いています。
Q(木全):この家族には、母親がいない設定になっていますが、なぜ、そういう設定にされたのでしょうか。
A(監督):元々、主人公のモティーフになった方が、離婚されていたことも影響しています。また、労働運動されている方々には、奥様がいないように感じています。また、家に帰って、妻と喧嘩するシーンは、ありきたりなイメージがあり、そういう設定には、したくありませんでした。
Q(木全):食事をするシーンがかなり登場し、中でもソーセージの料理が印象的でしたが。
A(監督):取材をする前は、労働運動される方にリーダーは、とても強いイメージがあり、好き嫌いなどないような方だと想像しました。ただ、実際に取材したリーダーの方は、好き嫌いが激しい方で、それがとても面白かったです。ソーセージが好きで、まるで小学生のような好みの人でした。『休暇』の原題は、「どうやって、食べていくのか」という意味のタイトルです。なので、主人公は食事を作る人という描き方をしています。主人公が誰かと交流する時は、食事をするシーンになっています。また、ラストシーンの紐で食事を届けるシーンは、あの食事を届ける紐を「パッチョン」(パク=食事、チョン=結ぶ紐)という言葉で、「食べていく手段」を意味しています。
Q(木全):一方で、若者は、インスタントラーメンを食べるシーンが多い気がしますが。
A(監督):対称的にみせたいという意図はありました。母親がいない少年は料理ができない設定ですね。また、若者たちは、食事に時間をかけず、ゲームなど他のことをしている印象なので、そのような形にしました。また、実際の若年労働者が死亡事件があり、そのカバンの中にカップラーメンが入っていたということがあり、韓国の方は、それを想起されるのではないかと思います。
Q(木全):ラストシーンは、活動を続けるのか、やめて家族の元に戻るのか、描かれていないように感じましたが、いかがでしょうか。
A(監督):労働運動の場所に戻った時、最初にカレンダーをめくるシーンがあります。あれは、活動を続けるんだ、という主人公の意思を表現しています。ただ、意外にも、映画祭などで観られた方からは、オープンな結末ですね、という意見が多いのが面白いです。
Q(木全):主人公の俳優は、どのように決めたのでしょうか。
A(監督):この作品のプロデューサーは俳優もしているのですが、その知人に声をかけて、オーディションに来てもらいました。この方は、最初、強面の印象なのですが、話し出すととても可愛らしい方だったのが決め手になりました。
Q(木全):影響を受けた監督などはおられますか。
A(監督):その時代に必要なテーマを描いているという点で、イ・チャンドン監督。また、是枝裕和監督は、精細に人を観察する監督で、影響を受けています。
Q(木全):現在の活動と今後の予定を教えてください。
A(監督):『休暇』は、韓国国内では10月末に公開予定です。次回作は、まだ構想中の段階です。
Q(木全):最後に、日本の観客の皆様へメッセージがあれば、お願いします。
A(監督):労働問題は、関係する労働者だけの問題ではありません。人生には、さまざまな闘争があると思いますので、それぞれの人生において、身近に感じて欲しい。
労働運動と家族
労働運動を否定するものではないが、家族の生活を放置してまで取り組む活動に、編集部は共感できなかった。日本における労働運動が、盛んではないことも影響しているかもしれない。労働運動からの「休暇」を得て、家族との絆を立て直す物語であり、最後には、引き留める長女を置いて、労働運動へ戻っていく主人公の未来に、家族との幸福を描いているいるとは思えなかった。
料理を作ること、部屋を片付けること
冒頭のシーンから終盤まで、主人公が料理を作る場面が多く登場し、休暇中に働く木材加工屋の若手の男の子と交流のきっかけや家族と交流、分かり合えた場面、いずれも食事のシーンが描かれていて、監督のこだわりを感じる。インタビューでも答えておられますが、「食べていくこと」を表現することで、その先に「生きること」を描いているか。
また、母親がいない家庭ということもあり、主人公は、手先が器用で片付けが上手。加工屋の男の子の家のボイラーを直したり、自分の家の流しのつまりを直したり、扇風機を解体して掃除したり。父親でありながら、母親が不在の家庭における親の人物像として、描かれている。
作品全体として
日本では、近年、劇映画ではほとんど観ることがない、労働運動をテーマにした作品は、新鮮で韓国の社会背景を知ることができる。現在の日本でも、労働者の賃金に景気が反映しない、ということが問題視される声が上がっているのならば、このような作品が近い将来製作されることがあるかもしれない。『休暇』あいち国際女性映画祭 作品紹介ページ
https://www.aiwff.com/2021/filmslist/overseas_special_offers/filmwork03
『休暇』A Leave(IMDB)
https://www.imdb.com/title/tt13705634/
0 件のコメント:
コメントを投稿