(C) Kate Kirkwood
第74回 カンヌ国際映画祭プレミア部門
第34回 東京国際映画祭 ユース
スタッフ staff
監督:アンドレア・アーノルド Andrea Arnold作品解説
『フィッシュ・タンク』(09)のアーノルド監督が一頭の牛の生活を描く。ドキュメンタリーであるが、劇映画に劣らないドラマ性を有したユニークな作品。(第34回東京国際映画祭公式HPより抜粋)
作品を観る前から
この作品が上映されたのは、東京国際映画祭のユース部門。例年であれば、満席にならない作品もある部門です。この作品は、知名度がある俳優が出演するわけでもなく、話題の劇映画でもなく、ドキュメンタリー作品です。が、しかし、印象的なビジュアルや前評判が良かったのか、会場は満席。会場に集まったお客様は、若い方から年配の方までさまざまでした。この人たちは、すべて、牛を、牛の演技を観るために来た人たちなのだなと思うと、映画が始まる前から楽しくなってしまいました。
主人公は誰か、感情移入する対象は?
この物語の主人公は、母と娘、、、、母牛と雌の子牛。冒頭、複数の牛が登場するところで、果たして、誰に感情移入して良いのか、飼育員か、牛か、そして、牛マニアでもないのだが、牛を見分けることができるのか、という不安が頭をよぎります。しかし、物語の中盤以降に差し掛かると、ヒロインである彼女=牛を群れの中から識別できる自分がいます。不思議。紛れもなく、彼女が主人公です。感情表現とは何か
人であれば、言葉、顔の表情、しぐさなど、その時の感情を表現する方法は多数存在し、それをもって、お互いのコミュニケーションを取っています。しかし、牛は、話す言葉を持ちません。鳴く、子牛を舐める、といった限られた手段でしか、表現することができません。それゆえ、この主人公たる彼女の感情を追いかけた時、その動きを注意深く追いかけることになり、また、切ない気持ちが沸き上がります。不思議。主人公が牝牛であること。擬人化した時
主人公である牛は、牝牛です。物語の中では、家畜として、子牛を出産し、その子牛と引き離され、種付けされ、また、出産します。そうやって、牛牧場の営みは保たれ、継続しています。この映画を観ている時、牛である主人公に感情移入した場合、彼女は女性で、生んだ子供と引き離され、初めてあった男性(雄牛)に犯され、身ごもり、出産する、ということになります。人間社会に置き換えた時、日本をはじめ、多くの近代国家が人口減少問題に直面していますが、人口を維持していくとなった時、この映画で表現されていることが、私達の社会にも起きうるのでしょうか。自分の子供を育てることができず、知らない異性の子供を妊娠し、出産する社会。このドキュメンタリーは、牛を追いかけている作品ですが、感情移入すればするほど、恐ろしくなる一面があります。作品全体として
ナレーションも何もない、ただ牛をみているドキュメンタリーなのだけれど、まるで劇映画のように、主人公たる牛へ感情移入していく不思議な体験を与えてくれる作品。希少な動物や植物の生態を紹介する教育系の映像は、幼少期から観ることはありますが、これはそういった作品ではなく、ともすれば、劇映画とも言える稀有なドキュメンタリーです。『牛』東京国際映画祭作品紹介ページ
https://2021.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3408YTT01
『牛』Cow(IMDB)
https://www.imdb.com/title/tt11548822/
第34回 東京国際映画祭 特集ページ
映画情報「Life with movies」
https://www.lifewithmovies.com/2021/11/34sttiff.html
(Life with movies 編集部:藤井幹也)
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