第23回 全州国際映画祭 国内コンペティション
CGV Arthouse Award Distribution Support Prize 受賞
Watcha´s Pick: Featuree 受賞
第27回 あいち国際女性映画祭 オープニング作品
スタッフ staff
監督:キム・ジョンウン KIM Jung-eun出演 Cast
キム・ジョンヨン KIM Jung-young:ギョンア Gyeong-aハ・ユンギョン HA Yoon-Kyoung:ヨンス Yeon-su
パク・ヘジン PARK Hye-jin
あらすじ
夫の死後、介護の仕事をしながら1人暮らしをするギョンア。多忙で娘のヨンスとはなかなか会えずにいるが、一方のヨンスは復縁を迫る元彼のサンヒョンにずっと悩まされていた。ある日ヨンスが突然ギョンアを訪れ、母娘は久々に楽しい時間を過ごすが、その夜ギョンアに1通のメールと娘の性的な動画が届き、2人の生活が一変する。(第27回あいち国際女性映画祭公式HPより抜粋)
9月8日(木曜)上映後オンラインQ&Aより抜粋
キム・ジョンウン監督(以下、監督)
聞き手:木全 純治 あいち国際女性映画祭2022ディレクター(以下、木全)
Q(木全):この作品を製作されたきっかけは何でしょうか。
A(監督):午前に観るには、重いテーマの作品だと思いますが、暖かい女性の連帯感を描いたので、伝われば嬉しいです。私は、敬虔なカトリックを信仰する、とても保守的な家で育ちました。父親というより、母親から厳しい躾けがされて。厳格で、小言を言われて育ちました。自分の一人暮らしの部屋をビデオ通話で母親が確認するシーンから、この作品は始まりますが、私も20歳の頃に同じように母親に確認されました。その時には、どうして母親を騙さないといけないのか、と悲しくなったことを覚えています。2018年-2019年、韓国では、デジタル性犯罪が社会問題となり、法律で規制された(「性暴力犯罪の処罰等に関する特例法」等関連法が制定・改正された)。この犯罪のために、女性が悲劇的な結末を選択したケースもありました。一方で、旧時代的な考え方を持つ人も根強く、時に、被害者である女性に非難の目が向けられることもありました。そんな社会の状況を、観客の皆さんへ伝え、意見を持って欲しいと考えました。
Q(木全):『ギョンアの娘』というタイトルの意味は、何でしょうか。
A(監督):主人公の名前「ヨンス」ではなく、「ギョンアの娘」としたのは、ヨンスは、成人していますが、母親の娘として、母親の下にいるという意味を持たせています。「ギョンア」という名前は、70年代~80年代に製作された韓国の作品によく登場する名前で、ホステス役の名前や男性の欲望の対象としての「女」、男性のファンタジーを投影したような役のよく使われた名前です。2022年に製作した『ギョンアの娘』は、次世代の「ギョンアの娘」がどういう生活を送っているのかを表現したいと考えました。
Q(木全):ギョンア役のキム・ジョンヨン、ヨンス役のハ・ユンギョンの2人をキャスティングした理由を教えてください。
A(監督):ギョンア役のキム・ジョンヨンさんは、20年以上のキャリアを持つベテラン俳優ですが、今回が映画初主演となります。多くの作品で、多彩な演技をしてきた俳優です。娘のヨンス役は、私と同い年で、舞台やインディペンデント作品にも出演しています。近年、Netflixドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』の弁護士役が印象的で、今では韓国では知らない人はいないぐらい有名になりました。
Q(木全):映画の舞台に、仁川という場所を選んだ理由は何でしょうか。
A(監督):仁川は、私が生まれ、育った場所であり、活動している場所です。私が製作した作品は、すべて仁川で撮影しています。港が近くにあり、日本の方には、空港のイメージが強いかもしれなません。懐かしい風景と新しい開発された風景が混在している場所で、過去と未来が交差しているような街です。ギョンアの夫のお墓参りに行ったシーンが象徴的かもしれません。終幕前まで、夫の影から抜け出せない母親が、寂しくて、辛い気持ちを表現するために「港」を使いました。
Q(木全):製作・演出する際に苦労されたことは、何でしょうか。
A(監督):デジタル性犯罪の関連法や報道は、被害者の苦しみを見落としているのではないかと考えました。「被害者」の被害者という部分だけを強調せず、立ち直り、新しい生活を送っていく姿を描きたかった。報道等では、被害者は、いつまでも悲しみ、部屋の中に居続けている、外に出られないという印象で伝えらていますが、そんなことはありません。ヨンアが携帯でバラエティ番組を観て、笑うシーンを入れることで、そういう面を表現したいと考えました。
Q(木全):デジタル性犯罪、なぜ、元彼はそこまで至るのか。韓国では、一般的なことなのでしょうか
A(監督):私の母の時代は、交際していて、別れることは恥ずかしいことで、自分から伝えることは、あまり一般的ではありませんでした。しかし、現代の私たちは、自分から、自分の意見として、伝えられるようになりました。一方で、若い男性は、なぜか、家父長制への憧れを持ち、父親=男の権威がなくなったことに怒りを持つことが多く、その矛先が、女性に向くことが多いのです。韓国では、そういう考えを背景にした事件が増えています。デジタル性犯罪は、この作品で描いたリベンジポルノだけではなく、元カノの家族を殺害した事件まで起きています。なので、今の韓国では「安全別れマニュアル」が作られています。男性の怒りの矛先が、女性に向かないようにする方法を書いてあります。こういう事件が増えている現状は、女性には、過酷な状況です。
Q(木全):日本では、まだ事件が少ないと考えていますが、韓国では、この作品で描かれた刑罰・刑期が一般的なのでしょうか。
A(監督):韓国でも、実刑が下されるようになったのは最近です。以前は、実行力がない示談のようなものしかありませんでしたが、最近、法改正されて、実行力が増しました。ただし、被害者は、一生、苦しまないといけないのに、刑期が1、2年では軽すぎるのではないか、と、現在も社会問題となり続けています。
Q(木全):8月には、韓国で上映されましたが、反響はいかがでしょうか。
A(監督):韓国の映画ファンはエンタメがとても好きなので、デジタル性犯罪が重いテーマが受け入れられるか心配していましたが、被害者が、どのように立ち直っていくのか、を描いたこともあり、女性の連帯感を感じたり、暖かい気持ちになっていただけた方が、予想よりも多かったです。
Q(木全):今後の予定はありますか。観客の方へのメッセージがあれば。
A(監督):この作品の前に、書いていた脚本があります。「キャスティング」をテーマにしたもので、監督と俳優の関係性を描いています。この作品も女性たちを描いた作品になるでしょう。私は、女性主義を保って、製作していきたいと思うので、女性のための映画になると思います。女性が弱者ではなくなるよう、手を組んで連帯していって欲しい。コロナで文化を楽しむ機会が減っている中で、この作品を皆さんが楽しんでくれたのであれば、嬉しい。
社会的なテーマをベースにするだけでなく
物語の背景には、韓国で社会問題となっているデジタル性犯罪の問題があるが、その悪質性を中心に取り上げるということではなく、被害を受けた女性が、その後、立ち直っていく、新しい一歩を踏み出していく姿までが丁寧に描かれていることが、この作品の優れた点だろう。同じ女性でも世代間の視点に差が
母娘の関係を描く中で、家父長制に「耐えた」世代である母親と、「声を上げる」世代である娘の対比も描かれている。世界は過疎度的に変化いく中で、自身が育った頃の体験や記憶をベースに、現代を理解しようとする姿勢が、世代間の乖離を産む原因となっているのは、日本も同じであり、新しい事柄を学び、理解する姿勢は、社会と自分の距離を近くすることができる。作品全体として
新鋭の監督が、社会問題を背景としつつも、ドラマとしても、脚本の精度の高いものを生み出せる韓国映画界を感じさせる作品。主人公が被害を受けてから、少しづつ変化する姿、母親との対立と理解。それらが、精緻に描かれるドラマは見ごたえがあり、素晴らしい。おすすめ作品。『ギョンアの娘』あいち国際女性映画祭作品紹介ページ
https://www.aiwff.com/2022/films/overseas_special_offers/538/
『ギョンアの娘』Gyeong-ah’s Daughter(IMDB)
https://www.imdb.com/title/tt21093922/
(Life with movies 編集部:藤井幹也)
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