(C)Sapushpa Expressions and Pilgrim Film |
第35回 東京国際映画祭 コンペティション部門
スタッフ staff
監督:サンジーワ・プシュパクマーラ Sanjeewa Pushpakumara出演 Cast
アカランカ・プラバシュワーラ Akalanka Prabashwara:アミラ Amilaサビータ・ペレラ Sabeetha Perera:マラニ Malani
ディナラ・プンチヘワ Dinara Punchihewa:ナディー Nadee
あらすじ
スリランカの小さな村に生まれた19歳の青年アミラは、両親の死後、首都コロンボに移住し、中国資本の企業の建設現場で働きながら4人の弟妹たちを養っている。難病を抱えた妹の心臓手術のために大金が必要になったアミラは、高額の給料と、先端治療が受けられるインド行きのビザを保証してくれる女性経営者のもので働き始める。それは、望まぬ妊娠で生まれた子どもを外国人夫婦に斡旋する組織だった。(第35回東京国際映画祭公式プログラムより抜粋)(C)2022TIFF |
10月29日(土曜)上映後Q&Aより抜粋
サンジーワ・プシュパクマーラ(監督/プロデューサー/脚本)(以下、監督)
アミル・アベイスンダラ(プロデューサー)
スランガ・ハンダパンゴダ(プロデューサー)
聞き手:市山尚三 東京国際映画祭プログラミング・ディレクター(以下、市山)
Q(市山):この作品は、ご自身の体験がベースになっているとお聞きしましたが、どのあたりでしょうか。
A(監督):とても辛いですが、妹の話です。1996年に、私は彼女を亡くしました。そして、私は、心の中では彼女を亡くしたくないと想っています。ゆえに、映画の中では生き続けて欲しいという想いで、この作品を製作しました。ただ、映画というものは、さまざまな感情を抱いたり、さまざまな視点で作品を観たり、また、作品を楽しむために観ています。芸術は、観た方の視野を広げたり、考え方を広げたり、さまざまなことを考えていただける場だと考えます。
自分の個人的な物語ではありますが、それを一つの大きなキャンバスの中で描きたいと思いました。キャンバスとは何かというと、私の国が経験している、社会的な、政治的な、経済的な問題の中で、私の経験を、私の人生を描いたわけです。
Q(編集部質問(会場から)):劇中で描かれている子供の人身売買の話は、実話を元にしているのでしょうか。
A(監督):実話を元にしています。現在、スリランカで起きている、現実の問題です。細かい所は、フィクションを入れていますが。
Q(一般):善悪の区別が曖昧なところにあるのが、素晴らしいです。人身売買組織の黒幕として、中国人の設定になっていました。スリランカの経済が良くない原因は、中国の一帯一路政策の影響だと考えていますが、そういう意味も込めて、黒幕を中国人にしたのでしょうか。
A(監督):正直なところ、明白には描きたくなかったです。アンダートーンで描いたつもりです。若い頃から映画を製作してきて、少しずつ、表現の仕方が変化しています。メタフォリカルに、シンボリックに描くようになりました。
(C)2022TIFF |
Q(イタリア人の方):共同制作にイタリアが入っていることを誇りに感じます。マラニという女性、悪人でもあり、良い所もある人物として描かれていますが、その理由はなんでしょうか。
A(監督):彼女をミックスで描いたのは、人間の行動には、なんらかの理由があると考えているからです。それは、100%善でも悪でもない。マラニも、彼女なりの理由があります。100%の善人、100%の悪人はいないと考えています。どんな人でも、両方を兼ね備えているし、三次元的だと思っているし、そのように描きたいと考えています。この映画の中で、主人公が自分の母親を3回ぐらい殺そうと考えたことがあると話していますが、私も30年前ぐらいにそう思ったことがあります。私は良い人でしょうか、悪い人でしょうか。私は今、母親を心から愛しています。
Q(一般):これは主に、誰を対象にしているのでしょうか。スリランカ国内でしょうか。海外へ向けているのでしょか。また、この作品に込められてた意図について。何か政治的なメッセージを込めたのでしょうか。
A(監督):この会場には、250人ぐらい観客の方がおられ、その中で、少なくとも質問をしてくださった3人の方は、この作品を気に入ってくれました。彼らは、知り合いと(この作品のことを)話してくれるでしょう。現在のスリランカは、こうだと話し合ってくれるでしょう、それが私と観客の方との関係性です。
私は、自分の事を描いていますが、共有してくれる人がいるはずだと考えています。
Q(一般):撮影について教えてください。シーンの最後、クローブアップでキャラクタの顔を映し、それが尾を引くような形でシーンが終わっていく、という描き方をされています。最近の作品では、あまり観られなくなった手法ですが、なぜ、こういう手法で撮ったのでしょうか。
A(監督):みなさまは芸術を愛する方だと思います。私も、美術館へ行くのが好きで、ひとつひとつの作品の前に立ち、一つ一つを鑑賞していきます。その絵に込められた感情だったり、いろんな線を鑑賞していくわけです。私は、映画を創るために、たくさんのことを学びましたが、まだまだ学ぶべきことがあります。私は映画を、絵画的に描きたいと考えています。一つのシーンを絵画のように描き、観客の方に鑑賞して欲しい、そして、彼らの感情を理解して欲しい。みなさんが登場人物に共感を持っていただき、彼らの感情をわかっていただきたい。それが私の映画づくりです。
善悪のはざま
この物語の中で、そして、実際にスリランカで行われている人身売買。スリランカは、望まぬ妊娠をした場合であっても、中絶することは違法とされているらしい。しかしながら、経済的には、中国の一帯一路政策の影響を受け、貧困から抜け出せないでいる。生んだとしても、子供を育てるだけの経済力がない、もしくは、望まぬ形で妊娠してしまった人々は、どうすればよいのか。中絶は、違法。人身売買も違法。主人公の働く組織の女性は、中絶できなかった女性の子供に生きる道を与えたい、という。法的には違法だが、果たして、彼女の行動は、悪なのか。(C)Sapushpa Expressions and Pilgrim Film |
社会問題としての中絶
この作品が上映された2022年。同じく中絶がテーマとなっている作品『あのこと』(ヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞)が、日本でも上映され、話題を呼んでいる。中絶の問題は、日本も先進国とはいえず、米国などの経済大国であっても、中絶の禁止の声が上がるもので、必ずしも、経済的な問題だけではない、宗教的な戒律や倫理観を内包したものとなっている。この問題は、残念ながら、現代でも多くの国で問題となっている以上は、映画の中で、取り上げられ続けていくことになるだろう。作品全体として
この作品の中で描かれていることは、日本においても社会問題となっている中絶の問題を内包されていて、他人事ではなく、残念なことながら、現代では普遍的な意味を持っている。監督もインタビューで答えているが、映画を観るだけでなく、その中で描かれていることを自分事として考えること、人と話すこと、それが大切なことであり、映画の素晴らしいことである。そう感じさせてくれる映画であり、Q&Aだった。『孔雀の嘆き』東京国際映画祭作品紹介ページ
https://2022.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3501CMP12
『孔雀の嘆き』Peacock Lament(IMDB)
https://www.imdb.com/title/tt16997704/
第35回 東京国際映画祭 特集ページ
映画情報「Life with movies」
https://www.lifewithmovies.com/2022/10/35sttiff.html
(Life with movies 編集部:藤井幹也)
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