『草原に抱かれて』The Cord of Life【感想・レビュー】ネタバレ少し含みます。

2022年10月26日水曜日

映画祭 外国語映画 東京国際映画祭

t f B! P L
へその緒

第35回 東京国際映画祭 アジアの未来部門
映画祭公開時タイトル『へその緒』

スタッフ staff

監督:チャオ・スーシュエ Qiao Sixue

出演 Cast

バダマ Badma:母 Mother
イダー Yider:アルス Alus

あらすじ

ライブハウスで活躍するミュージシャンのアルスは、認知症の進む母のことが気がかりでならない。母は町の集合住宅で兄と一緒に住んでいるが、まるで囚人のような生活である。意を決したアルスは母を引き取り、母の故郷の広大な草原で一緒に暮らし始める。認知症が顕著になっていく母に対し、アルスは自分と母を糸で結んで徘徊を防止しようとする。(第35回東京国際映画祭公式プログラムより抜粋)

へその緒Q&A
(C)2022TIFF
10月25日(火曜)上映後Q&Aより抜粋

チャオ・スーシュエ監督・脚本(以下、監督)
リウ・フイ(プロデューサー)(以下、P)
聞き手:石坂健治 東京国際映画祭シニア・プログラマー(以下、石坂)

Q(石坂):物語で描かれている内容は、ご自身の身近なところから着想されたのか、それとも創作でしょうか。
A(監督):私はフランス留学をしていて、故郷へ帰ってくる時、草原出身の方と出会う機会がありました。また、私の母は高齢であるということもありました。そして、この時に出会った女性から聞いた話が、私を突き動かすこととなり、この脚本を書きました。

Q(編集部質問(会場から)):監督のプロフィールを拝見すると、フランスで映像製作の実績を積まれていて、ルーツはフランスにあるのかなと考えています。一方で、エンドロールをみると、スタッフは、ほぼ中国のクルーになっていました。製作環境の違いで、苦労されたことなどありましたら、教えてください。
A(監督):私を留学させてくれた両親には感謝すると同時に、技術を国に持ち帰ることが出来て、嬉しいです。この作品の製作チームは、内モンゴルのチームですが、地元のことに詳しく、助けられることも多かったです。また、フランスでの製作の仕方、中国での製作の仕方をうまく合わせることが出来たと考えていますし、良い効果が出ているのではないか、とも考えています。ありがたかったのは、プロデューサーが一線級のスタッフを連れて来てくれたこと。新人監督なのに、とても嬉しかったです。母親役の方以外は、すべて内モンゴルの俳優です。リアルな内モンゴルを描くことが出来て、成功したと思っています。
A(P):私と監督は、作品の舞台となった同じ街の出身です。監督が、自分たちの街、あたたかさ、愛情、自然といったものを取り入れてくれて、嬉しかったです。また、スタッフも、多くの苦労がありましたが、完成まで漕ぎつけてくれて、ありがたいです。

へその緒Q&A2
(C)2022TIFF

Q(一般):文化的な部分を教えてください。劇中に登場する祭は、どういったものなのでしょうか。また、日本の映画界、東京国際映画祭は、どのように映っているでしょうか。
A(P):あの祭は(特別なものではなく)普段、何かのお祝い事があれば、行われているもので、着ている衣装も、各々が普段から着ているものです。日常的に祝い事があれば、あのように集まっています。
A(監督):私が来日したのは、今回が初めてで、今日が2日目です。日本の映画やドラマで観たイメージで来日しましたが、そのままでした。このあと、もう少し東京を感じたい、と思っています。

へその緒ポスター

新人とは思えない作品のクオリティ

撮影された映像は、360度の、室内で回転しながらの撮影や、手持ちカメラ、ドローンなど様々で、挑戦的な映像も含め、かなり工夫が凝らされていた。Q&Aでわかったが、脚本・演出は新人監督だが、その脇を固めるクルーは、一線級のスタッフをプロデューサーが集めたことで、作品全体のクオリティを上げられている。

タイトルの意味するところ

この作品は、認知症を患った母親と息子の物語ではあるが、近年、製作本数が増えている認知症及びその周辺の方を描いた作品ではなく、母子の絆とは何か、母と息子の終活の物語。タイトルは、物理的な形としては、認知症の母親が徘徊した時に、行方不明にならないように、息子が自分と結び付けた紐のことだが、その意味としては、母と息子の絆、家族の絆を意味しているのだろう。

現代のモンゴルの風景

作品の中では、サイドカーでゲルを運搬したり、広大な私有地をドローンで監視していたり、現代の内モンゴルの社会が垣間見られるもの面白い。余談だが、編集部は、作中で車が家に衝突し壁に穴が開くシーンがあるが、最後まで、その意味がわからなかった。

作品全体として

この作品が長編初となるチャオ・スーシュエ。韓国だけでなく、中国からも期待の新鋭監督がどんどん登場し、また、世界一のマーケットを誇る中国映画界なので、次回作以降の活躍も期待できそう。ただ、この作品に関しては、母と息子の心のありようを、ただ心暖かくなりつつ、見守ることができる素敵な作品。おすすめ作品。

『へその緒』東京国際映画祭作品紹介ページ
https://2022.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3502ASF04

『へその緒』The Cord of Life(IMDB)
https://www.imdb.com/title/tt20448482/

第35回 東京国際映画祭 特集ページ
映画情報「Life with movies」

https://www.lifewithmovies.com/2022/10/35sttiff.html

(Life with movies 編集部:藤井幹也

サイト運営

自分の写真
映画情報「Life with movies」編集部公式サイト。最新映画や映画祭、舞台挨拶のほか、編集部による過去映画トピックスをお届けします。 twitterアカウント:@with_movies

QooQ