(C)The Myanmar Film Collective |
※この記事は、2023年8月2日「NewsPicks」へ掲載したものです。
『ミャンマー・ダイアリーズ』Myanmar Diaries
第72回ベルリン国際映画祭パノラマ部門正式出品
ドキュメンタリー賞、ブロンズ観客賞、アムネスティ国際映画賞受賞作品
私たちと同じアジアの国のひとつ、ミャンマー。2011年頃から10年間、民主化にむけた変革期を迎えていましたが、2021年 2月1日、国軍がクーデターを起こし、国の実権を掌握。反発した民衆による大規模な抗議デモも勃発しました。また、現在も軍事政権による圧制が続いており、民主化を望む市民の方々は、市民的不服従運動(CDM)を全国各地で展開している。
この記事を書いている2023年8月2日、AP通信によれば、前日の8月1日、国軍は、仏教の行事に合わせて、7,749人の恩赦を与え、死刑を減刑すると発表した。そのさらに前日の7月31日には、4回目の非常事態宣言の延長(半年)を発表した。しかし、そもそも、よく考えて貰いたい。政治犯支援協会(※権利監視団体)によれば、2021年2月1日以降、国軍は、民間人を2万4123人が逮捕し、また、治安部隊によって、3,857人を殺害しているのです。
そして、そんな国内の情勢の中で、この作品は製作されているのです。
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匿名の若手映画作家たち
この作品の監督・製作は、Myanmar Film Collective とクレジットされている。この組織は、 軍事クーデター以降、ジャーナリストや映画制作者の逮捕が続く、厳しい状況下でも作品を作り続けるため、若手ミャンマー人作家たちが自らの匿名性を維持するために結成したもの。その中から、今回は10人が短編の製作に参加し、オランダ在住のプロデューサーらの支援のもとで、完成したものです。
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映画製作による「匿名性」には、さまざまな意味を持つが、現状、ミャンマーでは、匿名でなければ、国軍に逮捕や殺害される危険を伴う。逮捕され、拘束され、また、殺害されたミャンマー人のジャーナリストの方々が複数確認されています。また、日本のドキュメンタリー映像作家の久保田徹さんが、2022年7月30日、ミャンマーで取材中に拘束され、111日後に開放されたことは、記憶されている方もおられるのではないでしょうか。※久保田さんは、現在、NewsPicks内でも、自身の活動について、情報発信をされている。
トピックス「自由でいるための実践と記録」
https://newspicks.com/topics/torukubota
さらに、匿名で語られるもうひとつの意味。この作品で語られる内容は、その映画監督だけの想いなのでしょうか。顔のみえない彼らの語る内容は、ミャンマーで生きる方々の共通する想いへと繋がり、さらに紛争や圧制に苦しむ、世界の方々の想いへと繋がるのではないでしょうか。
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10篇の短編とSNSに投稿された市民の目
この作品は、10人の若手作家による短編作品10本と、SNS上に残る市民が投稿した映像を組み合わせる形で構成されています。路上や部屋からの撮影でも、危険を伴う状況の中で製作された短編は、フィクションと呼べるのか。その内容は、実話を元にした内容であり、また、すべてが「一人称」で語られている。それは、彼らの想いであり、彼らの声である。ゆえに、SNS上に残された国軍による弾圧や抵抗する人達の姿と、短編で語られる内容が、シームレスに繋がって感じられるのだろう。
映画を観て、世界で何が起きているのか、を知る。
日本にいる私たちに、何ができるだろう。ニュース報道では、現地で起きた事実の一部を知ることはできますが、そこで生活されている私たちと同じ、ただの住民の方々の想いは、あまり伝えられず、知ることが難しい。この作品には、ミャンマーの街に住む若者の心が詰まっている。この作品を観ることで、少しでもその想いに近づくことができるのではないでしょうか。
また、この作品の興行収入は、映画館への配分と配給・宣伝経費を差し引いた全額が、配給元の株式会社E.x.Nにより、支援金としてミャンマー避難民の生活支援活動を行う団体・施設に寄付されることになっています。つまり、私たちが映画館へ足を運ぶことで、支援の一部になります。
『ミャンマー・ダイアリーズ』
(匿名のミャンマー人監督たちによる制作)
公式サイト:www.myanmar-diaries.com
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