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『トラブル・ガール』は、第60回金馬奨において、主演のオードリー・リンが、史上最年少(12歳)で、最優秀主演女優賞を受賞したことで、話題となった台湾映画。同作品は、ほかにも、第26 回台北映画祭で最優秀主演女優賞、最優秀助演女優賞を受賞、4 部門ノミネート、第26 回ウディネ・ファーイースト映画祭ホワイト・マルベリー賞ノミネート、第19 回大阪アジアン映画祭コンペティション部門選出など、各国の映画祭で話題を集めました。
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あらすじ自分だけの世界を持ち生きる少女、シャオシャオ。学校では、孤立しクラスメートからいじめを受けている。家では、母親から厄介者扱いされ、海外で働く父親は不在がちで、身近な存在でありながら他人のよう。そんな彼女の感情を理解し和らげてくれるのは、担任のポール先生だけだった。しかし、ある嵐の日、彼女は母親とポールが不倫していることを知ってしまう。シャオシャオは困惑しながらも、複雑な関係に適応しようとするが――。【公式サイトより転載】
この作品が、初長編監督でありながら、「ADHD」の少女と、彼女を取り巻く家族というテーマに挑戦し、金馬奨、大阪アジアン映画祭など、多くの映画祭で評価されたジン・ジアフア監督。今回は、監督にメールでインタビューを行い、この作品を描くきっかけや、キャスティングの理由、印象的な演出の意図などを伺いました。
※インタビュー内容には、作品の内容に踏み込んだものが含まれていますので、ご注意ください
※また、本インタビューは、第19回大阪アジアン映画祭において、実施された監督Q&Aの内容を前提に質問しています。
写真:ジン・ジアフア監督(第19回大阪アジアン映画祭上映時) 提供:大阪アジアン映画祭事務局 |
監督:ジン・ジアフア監督・脚本を担当した短編作品『Lucky Draw』(19)や『A Cold Summer Day』(19)は、金鐘奨、金穂奨、高雄映画祭、ニューヨークフェスティバルTV&映画賞(短編部門金賞)など数々の映画祭で、その実力が評価された。また、これらはクレルモン=フェラン国際短編映画祭国際コンペティション部門に選出されたほか、 台北映画祭、ショートショートフィルムフェスティバル&アジア、シンガポール中国映画祭などでも上映された。『トラブル・ガール』は初の長編映画。
ーーなぜ、ADHDの少女を描こうと考えたのでしょうか。パーソナルな理由でしょうか。それとも、友人や知人などから聞いたエピソードが元になっているのでしょうか。このテーマを描こうと考えたきっかけを教えてください。
ADHDの原因は非常に複雑で、科学者の多くは、ADHDは病気ではないと考えています。そのため、その治療において薬を使うべきかどうかという議論が続いています。私は、子どもは誰でもADHDになる可能性があり、問題の根本は、私たち大人が子どもに何を期待しているのか、というところにあるのではないかと考えます。もし、私たちの言う通りに授業中ずっと座っていることができない子どもたちが「ADHD」とされるのであれば、今の都市部でそのような子どもの割合が、今、とても高くなっていることについて考える必要があると思います。本当にその子どもたちは、ADHDなのでしょうか?それとも、私たち大人の要求自体が最初から間違っているのでしょうか。つまり、「問題がある」のは、子どもなのか、それとも大人なのか?
これが、社会に溶け込むのが苦手な子どもを撮影したいと考え、ADHDを選んだ理由です。もちろん、私の娘が小学校に入る前にADHDの可能性があったことも関係しています。
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ーー主人公の少女を演じたオードリー・リン(Audrey LIN)の演技は素晴らしく、第60回金馬獎主演女優賞を、歴代最年少(12歳)受賞されました。なぜ、彼女をキャスティングされたのでしょうか。子どもへの演出は、難しく、また、監督により、演出方法が変わると考えています。監督は、どのような演出方法をされたのか、心がけたことはなんでしょうか。
彼女の顔を見た瞬間、「この子だ」と直感しました。その後、彼女と話す機会を作ったのですが、ちょうどパンデミックの時期で、彼女はマスクをつけたままでした。私たちは彼女にシュークリームを渡し、それを食べてもらうことにしました。彼女はゆっくりとマスクを外し、シュークリームを食べ終わるとすぐにマスクをつけ直しました。それを見て、私はスタッフに「見つけた」と伝えました。彼女の、役を勝ち取ろうという計算などが全くなく、無防備で自然体な姿が、まさに私が求めていたものだったのです。私たちは長い間シャオシャオを探し続け、200人以上の子どもを見てきましたが、その時、もう探す必要はないと確信しました。彼女にはとても大きな信頼を置いています。
オードリー・リンは控えめで口数は少ないですが、非常に感受性の高い子どもです。常にたくさんのセンサーを持っており、周囲のことを静かに感じ取っています。彼女はADHDについて学ぶために本を借りたり、関連する映画を観たりしました。また、私たちがADHDの子どもたちと直接触れ合う機会を作ったのですが、その後には自分の観察をレポートにまとめていました。そして自分の生活の中で、ADHDの子どもに近づく方法を模索し始めました。
例えば、私が渡したADHDの子どもの部屋の写真には、物が山のように積み上がり、散らかった様子が写っていたのですが、それを見た彼女は、1週間かけて自分の生活を変え、その写真のように自分の部屋を作り上げ、それを写真に撮り、私と話し合いました。彼女はそれまでは非常に規律正しく、整然とした性格でした。
さらに彼女は、階段を上る際に「ADHDの子どもだったらどう上るだろう」と考えたり、歯を磨く際にも「ADHDの子どもならどう磨くだろう」などと、台本には書かれていないことまで想像しました。簡単に言えば、彼女は現実の生活そのものを、その役柄に置き換えて生活していたのです。
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ーー実際のADHDの子どものリサーチは、されたのでしょうか。
娘の成長過程を通じて、特に都市部ではますます増えている問題だと知りました。娘の状況をきっかけに、多くの保護者や教師、そしてADHDの支援者と連絡を取り、フィールドワークを10年にもわたって続けました。
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ーー母親のアイビー・チェンの演技も、素晴らしかったです。過去の出演作品。『軍中楽園』(OAFF2015)や『悲しみより、もっと悲しい物語』(OAFF2019)とも印象が異なりますが、なぜ、彼女をキャスティングされたのでしょうか。彼女と、この作品について、どのような会話をされていたのか、教えてください。
2人目のお子さんをご出産されたばかりということで、これまでの演技と比べると、彼女の人生が大きく変化している最中だと感じたからです。お会いしてみると、とても誠実で飾らない一面も見せてくれました。「地下鉄に乗ってきました。この後ランニングに行く予定です」と話していて、そのエネルギッシュさが非常に印象的でした。
反対にオードリー・リンは穏やかな性格の子どもなので、もし母親の方がエネルギッシュなタイプであれば、観客に「本当に問題を抱えているのは子どもではなく、むしろ大人なのではないか」ということを想像させやすくなるのではないかと考えました。
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ーー作品の中での光の演出について。前半の台風のシーンから、母と娘の住むマンションの中は、特に、暗かったり、逆光で表情がわざと見えづらい演出をされていますが、演出のこだわった点を教えてください。また、シャオシャオの着ている合羽の「黄色」、母と娘が同調した時の「赤い服」など、印象的なシーンだけ、原色を使われていますが、その意図を教えてください。
台風が来る前の薄暗さや緊張感のような感じを出したかったのです。それは、こういった子どもと長い時間一緒に過ごすと感じることでもあります。台風は、ものを破壊しますが、同時に万物が成長するために必要な雨も、もたらします。台風が来る前には、大人も子どもも興奮を覚えます。それは、既存の枠組みが破壊されようとしていることへの期待に似ています。黄色や赤は警告や危険を示すと同時に、ぶつかり合う生命力をも象徴しています。これが、ADHDに対する解釈の一つです。
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『トラブル・ガール』
原題:⼩曉 英題/Trouble Girl
作品情報
監督・脚本:ジン・ジアフア
出演:アイヴィー・チェン、テレンス・ラウ、オードリー・リン
2023年/台湾/ビスタ/5.1ch/103分/中国語、英語/字幕:古川 裕/字幕協力: 大阪アジアン映画祭
配給:ライツキューブ
1月17日(金)よりシネマート新宿他、全国順次公開!
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【執筆者:藤井幹也】
映画情報「Life with movies」 の運営を担当。 年間400本以上の作品を映画館で鑑賞しつつ、国内で開催される映画祭(東京国際映画祭、大阪アジアン映画祭、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭、フランス映画祭、イタリア映画祭等)へ参加している。作品配給側の視点ではなく、作品鑑賞側・観客側の視点を持ちつつ、客観性と多様性を持つ映画情報を届けるべく、と日々活動中。活動エリアは、京都を中心に、関西地域ですが、映画祭へ参加のため全国各地を飛び回る日々。
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